マーケ3冊、1枚で。
3 BOOKS DECODED / 2026-08-17

売上の壁は、
新規では
超えられない。

『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』『実践 顧客起点マーケティング』『心理ロイヤルティマーケティング』——3冊は別々の本に見えて、同じ1つのエンジンの設計図・虫めがね・体温計だった。売上を伸ばす順番と、その中身と、測り方。高校生でもわかる語彙で、明日の仕事に使える形まで噛み砕いた。

高校生でもわかる 売上の壁(西井敏恭) 顧客起点(西口一希) 心理ロイヤルティ(渡部弘毅) 単一HTML・保存OK
衝撃の数字
80/100

ある事業の売上100のうち、広告で取った新規はたった20。残り80は、毎年積み上げた継続顧客だった。
——『売上の壁』の売上分解

新規獲得は売上の主役ではない。3冊が別々の角度から同じ結論に着地する。

売れ続ける = 順番を直す売上の壁 / F2転換 × 一人に深く聞く顧客起点 / N1 × 愛着を測る心理ロイヤルティ
01 / THE TRAP

「新規とキャンペーン」の中毒

3冊が口をそろえて最初に否定するのは、努力不足ではなく「新規獲得と目先の反応だけを追う」という戦い方そのもの。

売上の壁

穴の開いたバケツに注ぎ続けるな

リピートされない事業で新規を注いでも、漏れるだけ。本の試算では、新規で取った1万人は翌年3,000人、5年後には650人まで目減りする。新規獲得で売上を維持するのは、年々きつくなる坂道を全力で走り続けることに近い。

心理ロイヤルティ

「キャンペーン大成功」のワナ

ポイント倍増で来店が増えても、それは行動が動いただけで(愛着)は動いていない。愛着なき売上を本書は「悪い売上」と呼ぶ——今の数字は作るが、未来のリスクになる売上。ブームで行列を作った店が2年後に大量閉店するのはこの構図。

顧客起点

行動データには「きっかけ」が写らない

車を買った本当のきっかけが「たまたま知り合いの車に乗った」だったりする。人は自分の行動理由を意識していないから、購買ログをいくら眺めても「なぜ」は出てこない

心理ロイヤルティ

5:25の法則

新規獲得には顧客維持の5倍のコストがかかり、顧客離れを5%改善すれば利益は最低25%改善する——それでも投資は新規側に偏りがち。「総論賛成、各論で止まる」のが顧客維持。

25
共通の結論

順番がすべて

広告もキャンペーンも悪ではない。ただし「構造を知る → 中身を知る → 心を測る」の後に来たときだけ、それらが積み上がる売上に変わる。

02 / THE STRUCTURE

設計図:売上を2つに割ると、壁の正体が見える

『売上の壁』の核。全体売上を眺めて一喜一憂するのをやめ、「新規」と「継続」に分解した瞬間、打つ手の順番が決まる。

最重要指標 — F2転換

勝負は「2回目」で決まっている

1回買った人が2回目を買う——これがF2転換。面白いのは、F2転換率は業種によって5〜30%とバラバラなのに、F3以降(3回目→4回目…)はどこも60〜70%に収束すること。つまり一番高い壁は2回目だけで、ここを5%→10%にできれば、その後の数字は全部連動して伸びる。

著者のたとえがうまい。「おすすめのラーメン屋を教えて」と聞かれて頭に浮かぶのは、2回以上行った店だけ。人が「買いたい」と思ったときの選択肢は大体3つしかない。その3つに入る資格が、2回目の購入なのだ。

分水嶺

継続率50%

年間の継続率が50%以上なら売上は伸びていく。しかも継続率は年数を経るほど上がる(1年目30%でも、2年目60%、3年目72%…長く使う人ほど辞めない)。だから顧客の状態を見れば来年の売上はほぼ予測できる

50
F2を上げる3つのレバー

タイミング × 商品 × 伝え方

タイミング: お試し購入のF2の山は申込から8〜10日。30〜60日を過ぎると激減——「おいしいごはんも、空腹のときに出さなければ食べてもらえない」。商品: 入口は「次につながる」もの(毎日使って1か月でなくなる化粧水は向く、セーターは向かない)。伝え方: 熱が冷める前に、売り込みでなく体験を支える連絡を。

広告は最後・逆算で

広告費は「売上の◯%」で決めない

獲得単価(CPA/CPO)と平均継続期間から投資回収の期間で決める(平均利用1年なら回収目安6〜8か月)。回るなら大きく張ってよく、回らないなら直すのは広告ではなく継続側。順番の最後に広告が来る理由がこれ。顕在層から順に、検索連動・アフィリエイト→SNS広告→純広告。

03 / THE PERSON

虫めがね:平均をやめて、一人に深く聞く

『顧客起点マーケティング』の核。F2転換を上げると決めても、「何を変えるか」は平均データからは出てこない。実在する一人(N1)から掘り出す。

N1分析

1,000人の平均より、一人の「きっかけ」

ニーズを平均化すると誰にも刺さらなくなる。だから実在する顧客一人にインタビューし、認知や購買の「きっかけ」と深層心理を掘る。大事なのはN=1×10回であって、N=10(まとめて平均)ではないこと。量的調査は仮説の検証用、N1は仮説の発見用と役割が違う。

アイデアの定義

独自性 × 便益。片方だけでは売れない

人を動かす「アイデア」=独自性(他にない)×便益(客の得)の掛け算。独自性だけなら一過性のギミック、便益だけなら価格競争行きのコモディティ。面白いCMがバズったのに売れない現象は、広告の面白さが商品の便益につながっていないだけ——実際、SNSで反響が大きいCMより、便益をまっすぐ語るCMの方がダウンロードにつながった実例が載っている。

9セグマップ

「たくさん買う客」と「好きで買う客」を分けろ

顧客を認知×購買頻度で5層に分け、さらに「次回も買いたいか(ブランド選好)」の縦軸で9分割する。すると「大量に買っているが選好はない消極ロイヤル」——店が近いから買っているだけの層——が見える。この層は代替品が出た瞬間に流出する(近所の店の客をAmazonが奪った構図)。販促は横移動、ブランディングは上移動。1枚の地図で両方を管理する。

9
投資効率の数字

「好き」は獲得コストを半分にする

ブランド選好のない層の獲得コストは、選好のある層の2〜3倍。未認知層は認知済み層の1.6〜2.2倍。同じ広告費でも「どの層に張るか」で効率が数倍変わる——顧客を層で見る実利がここにある。値引きやポイントの「お得」で釣った客は選好を持たないので、より安い競合へ移る。

04 / THE THERMOMETER

体温計:見えない「愛着」を数字にする

『心理ロイヤルティマーケティング』の核。「で、それやれば、なんぼ儲かんねん?」——経営者のこの問いに答えるには、心を測る道具がいる。

頭の満足 ≠ 心の満足

スペックで選び、愛着で残る

満足には2種類ある。頭の満足=論理の評価(品質・価格・スペック)と、心の満足=感情の愛着。人間関係と同じで、「仕事ができる・年収が高い」は頭の判断だが、永くつきあうのは「会うとなぜか心が休まる」相手。アンケートの満足度が80%でも、心に響いていなければ客は残らない。

琴線感度

「どの体験が心に刺さったか」まで測れる

満足度(頭)とは別に、その項目に満足した人たちの愛着スコア=琴線感度を測る。すると「体験した人は少ないが、心に強く響く体験」が見つかる。百貨店の分析では、愛着に最も差が出たのはギフト購入——「贈った相手に喜ばれて嬉しかった」が琴線の最上位。コスト削減の標的になりがちなラッピングが、実は愛着の源泉だった。

定量的証明

不満客への神対応は、ファンを作る

あるカスタマーサポートの分析。問い合わせをして「大変満足」の対応を受けた層の愛着スコアは56.3、大変不満の層は▲40.0、問い合わせすらしないサイレント層は▲0.2(全体平均3.3)。クレーム対応はコストではなく、全顧客接点の中で最も愛着を動かす投資先だと数字が証明した。

56
良い売上・悪い売上

同じ売上でも、中身がちがう

売上を愛着の高低で3つに割る: 良い売上(愛着高=未来を支える)/不確実な売上(中)/悪い売上(低=未来のリスク)。売上が成長中でも悪い売上の比率が増えていたら危険信号。決算書には出ない「売上の質」を見る道具。

05 / HOW THEY CONNECT

なぜ3冊で1つのエンジンになるのか

3冊は同じ機械の別の部品を描いている。どれか1冊だけだと、必ず「測れない」か「中身がない」か「順番を間違える」。

接続の種明かし

3冊は同じ場所を指さしている

9セグマップの縦軸「次回も買いたいか」を思い出してほしい。このブランド選好こそ、渡部さんの言う「心理ロイヤルティ」そのものだ。そして西口さんが警告する「消極ロイヤル」(選好なき大量購買)は、渡部さんの「不確実な売上・悪い売上」と同じ現象を別の言葉で呼んでいる。

西井さんのF2転換は、その行動側の現れだ。2回目を買うという行動の裏には「買いたい気持ち」がある。ではその気持ちの中身をどう知るか——N1インタビューで掘る。打った手が心に効いたかをどう確かめるか——琴線感度・NRSで測る。つまり、売上の壁が「どこを直すか(順番)」を、顧客起点が「何に変えるか(中身)」を、心理ロイヤルティが「効いたか(計器)」を担当している

数字まで呼応している。「売上の8割は2割のロイヤル客」(西井)、「上位20%の顧客は中長期で見ると売上80%」(西口)、「新規獲得は維持の5倍のコスト」(渡部)——3人が別々のデータから、同じ経済学に着地している。

役割分担

売上の壁 = 設計図

売上を新規と継続に分解し、直す順番を決める。「まずF2、広告は最後」

役割分担

顧客起点 = 虫めがね

実在する一人を深く見て、「買いたい」の中身(独自性×便益)を取り出す。

役割分担

心理ロイヤルティ = 体温計

見えない愛着を数字にして、打ち手が心に効いたかを確かめる。

06 / YOUR TURN

明日の仕事で、そのまま使う

3冊の型を1本の手順にした。EC・店舗・BtoB・個人の発信でも、言葉を入れ替えれば同じに動く。

実践手順 — 統合5ステップ
  1. 売上を「新規」と「継続」に分けて書く

    全体売上の一喜一憂をやめる。今年初めて買った人の売上と、去年からの人の売上。この2つの数字が壁の正体を教えてくれる。

  2. F2転換率を出して、最大の壁を特定する

    1回買った人のうち、2回目を買った人は何%か。ここが5〜30%で暴れる一番高い壁。F3以降は放っておいても6〜7割つながる。

  3. 2回目を買ってくれた一人(N1)に聞きに行く

    平均アンケートではなく、実在の一人に「何がきっかけで2回目を買ったか」。そこに独自性×便益のタネがある。離反した一人にも聞くと、漏れる穴も見える。

  4. タイミング×商品×伝え方の3レバーを直す

    N1で見つけた中身を、熱が冷める前(8〜10日)の連絡・次につながる入口商品・体験を支えるコミュニケーションに落とす。値引きで釣らない——選好が育たない。

  5. 「次回も買いたいか」を定点で測る

    継続利用意向を5段階で聞き続ける(NRS)。行動(リピート率)と心理(愛着)の両方が上がって初めて「良い売上」。行動だけ上がったら、それはキャンペーンのワナ。

応用の型

言葉を入れ替えるだけ

  • 店舗: 常連の定義を「回数」でなく「また来たいか」で持つ。近いから来ている客は、隣に競合ができた日に消える。
  • SNS・発信: フォロワー数は行動、保存・DMは心理寄り。2回目に見に来てくれた一人に「なぜ?」を聞けたら強い。
  • BtoB: 契約更新率がF2。更新した担当者一人・解約した一人へのヒアリングがN1。
  • クレーム対応: コストではなく愛着投資。神対応の層はスコア56.3、放置の層は▲0.2。
07 / QUICK REFERENCE

困ったとき逆引き表

「今どの状態か」から、使う道具と出典に飛べる一覧。

症状処方道具
新規獲得が頭打ちで売上が伸びない売上を新規/継続に分解。継続率50%未満なら直すのは広告ではなくF2転換売上の壁
広告費をいくらまで使っていいか分からない「売上の◯%」をやめ、CPA・CPO・平均継続期間から回収期間で逆算(目安6〜8か月)売上の壁
リピーターはいるのに、なぜか不安「次回も買いたいか」を聞く。選好なき消極ロイヤル=悪い売上は代替品が出たら流出する顧客起点 心理
満足度アンケートは高いのに売上が伸びないそれは頭の満足。心の満足(琴線感度)を分けて測ると、効く体験が別の場所に見つかる心理
ペルソナを作ったが施策につながらない架空の平均人をやめ、実在の一人(N1)に「きっかけ」を聞く。N=1×10回、N=10ではない顧客起点
キャンペーンで売上が出たのに翌月戻る行動だけ動いて心理が動いていない。お得で釣った客は選好を持たず、より安い方へ移る顧客起点 心理
広告がバズったのに売れない独自性が便益につながっていないギミック。商品の便益をまっすぐ語る案に戻す顧客起点
お試し購入からの定着が悪いF2の山は8〜10日。30〜60日過ぎたら手遅れ。熱いうちに、売り込みでなく体験を支える連絡を売上の壁
08 / CHECK

理解度チェック

答えを見る前に、自分の言葉で仮説を立ててから開くこと。

「今月は新規獲得キャンペーンが大成功して過去最高売上」——3冊の言葉で、何を確認すべき?
①その売上の新規/継続の内訳(新規偏重なら来年は目減りする)②獲得した客の選好——お得で釣ったなら消極層=悪い売上の可能性 ③F2転換の仕込みがあるか(8〜10日以内のフォロー)。行動の数字だけでは「良い売上」かどうか分からない。
「うちのロイヤル顧客は月10回買ってくれる人たち」——この定義のどこが危ない?
頻度(行動)だけで定義している点。「次回も買いたいか」を聞くと、店が近い・他に選択肢がないだけの消極ロイヤルが混ざっている。この層は競合出現で一気に流出する。ロイヤルの定義には行動×心理の2軸が要る。
F2転換率を上げたい。最初にやるべきは、施策のブレストか?
違う。2回目を買ってくれた実在の一人と、1回で離れた一人に「きっかけ」を聞きに行く(N1)。平均データやブレストからは出ない「なぜ」がそこにある。施策(How)はその中身が分かってから——Howから入るのが一番の遠回り。

TODAY'S ONE ACTION

3冊を読み直す必要はない。今日、手元の数字で1つだけ計算する。

「先月の売上のうち、2回目以上の購入は何%だったか?」
を計算して、メモの1行目に書く —— この1つの数字に、設計図(構造)・虫めがね(誰に聞くか)・体温計(何を測るか)の入口が全部ある
NEXT QUESTIONS

次に考える3つの問い

→ 自分の事業・仕事の「F2転換」にあたる行動は何か?(2回目の購入・更新・再訪・再依頼…)
→ いまの売上を「良い・不確実・悪い」に分けたら、どんな比率になりそうか?
→ 最近2回目を買ってくれた一人の顔が浮かぶか? 浮かんだら、その人に何を聞くか?

09 / SOURCES

出典

本記事は下記3冊の内容を要約・再構成したもの。数字・比喩・実例はすべて各書籍の本文で確認したものだけを載せている(各書とも主要章をサンプリング読了。未読部分あり)。

デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法

西井敏恭/翔泳社。新規と継続の分解・F2転換・継続率50%・投資回収で決める広告費の出典。

実践 顧客起点マーケティング

西口一希/翔泳社。N1分析・アイデア(独自性×便益)・9セグマップ・消極ロイヤルの出典。

お客様の心をつかむ 心理ロイヤルティマーケティング

渡部弘毅 著・諏訪良武 監修/翔泳社。頭と心の満足・琴線感度・良い売上/悪い売上・5:25の法則の出典。